転職先の決め方|比較表では決まらない。先に決めるのは「一番大事なもの」

転職先を決めるとき、条件を並べた比較表を作る人は多いと思います。年収、勤務地、休日、仕事の内容——それぞれに点数をつけて、合計が高いほうを選ぶ。

ただ、この方法で決まった経験がある人は、あまり多くないはずです。 点数をつける時点で、どの項目をどれだけ重く見るかが決まっていないと、合計はいくらでも動くからです。

先に決めるべきなのは、自分が一番大事にしたいものは何かです。この記事では、その決め方と、それでも決め切れないときに効く問いを整理します。

先に結論:一番大事なものを1つ決めて、それ以外を削ぎ落とす

  • 「得るもの・捨てるもの」を天秤にかける前に、自分が一番大事にしたいものを言語化するのが先です
  • 得るもの=自分が一番大事にしたいもの、およびその構成要素。捨てるもの=その過程で手放すもの
  • ただし、捨てるものが必ずあるとは限りません。 条件がすべて良くなる転職なら「捨てる」という言い方は当てはまりません
  • 何を大事にするかに、正解の序列はありません。 年収を最優先にすることも、それで自分の生活が良くなるなら成功です
  • その軸が絶対評価か相対評価かは、言葉の上では区別がつきません。 「今の会社」を出さずに志望理由を説明できるかで確かめられます
  • 決め切れない原因は、たいてい自分の中で優先順位を絶対評価で持てていないことです
  • そのときに効く問いは、「そもそも、何を実現したくて転職活動を始めたんだったか」
  • 軸がブレたように見えるとき、点検すべきは、最初に置いたものが本当に軸だったかのほうです
  • エージェントに決めてもらうことはできません。 決めるのは常に本人です
  • 入社後の「思っていたのと違った」は、聞けなかったのではなく、聞かなくても大丈夫だと判断していたことから生まれます

順に見ていきます。

「得るもの・捨てるもの」は、天秤ではない

転職の判断は「得るものと捨てるものを比べる」と説明されることがよくあります。ただ、その比べ方の前に、順番があります。

つまり、こういう構造になります。

得るもの

自分が一番大事にしたいもの、およびその構成要素。

捨てるもの

それを実現する過程で手放すもの。現職で積んできたキャリア、年収、福利厚生、住み慣れた場所での生活など。

作業としては、一番大事なものが何なのかを言語化して、それ以外を削ぎ落としていくことになります。項目を並べて点数をつけるのとは、順番が逆です。

捨てるものが、必ずあるとは限らない

「得るものがあれば、何かを捨てなければならない」と考える必要はありません。

年収が上がり、福利厚生も良くなるなら、「捨てる」という表現は当てはまりません。 すべての条件が改善する転職はありえますし、その場合に無理やり失うものを探す必要はありません。

逆に、手放すものが大きいと分かった時点で、転職しないという判断もあります。 一番大事なものを実現するために今の環境を変える必要がないなら、それは動かないほうが筋が通っています。

何を大事にするかに、正解の序列はない

判断軸を考えるとき、「年収で選ぶのは浅い」「やりがいで選ぶべきだ」といった序列が語られることがあります。この序列に乗る必要はありません。

大事なのは、いろいろな価値観といろいろな優先順位があるなかで、自分のそれをきちんと認識して活動することです。他人の序列を借りてくると、決めたあとで違和感が残ります。

注意したいのは、優先順位を確かめないまま「年収が上がるから」と勧めてくる相手です。判断の材料としての年収と、動かすための材料としての年収は別物です。

その軸は、絶対評価になっているか

自分の軸を持っているつもりでも、実際には今の職場との比較でしか語れていないことがあります。この2つは、言葉の上ではほとんど区別がつきません。

たとえば、応募先の企業理念に共感したという話。同じ「共感」でも、2つの型に分かれます。

自分の軸が先にある(絶対評価)

「自分が大事にしたいもの、これまでのキャリアで確信を得たものはこれです。それに対して、この会社の考え方や価値観はフィットしていると思っています」「自分がやっていきたいことをするための通り道になっている」

今の職場への違和感が起点(相対評価)

「今の会社ではこういう話が多くて、こういう風土があって、そこに違和感を感じることが多いので、この会社の考え方に共感します」

前者は自分の軸との近さ・重なりを見ています。 後者は今の環境の裏返しを見ています。後者のまま決めると、次の職場でも同じ違和感に行き当たることがあります。嫌だった理由そのものが、まだ言葉になっていないからです。

自分がどちらで話しているかは、「今の会社」を一度も出さずに志望理由を説明できるかで確かめられます。

決め切れないときに効く問い

複数の選択肢が残って決め切れない。この状態には、たいてい共通の原因があります。

自分の中で大事にしたい価値観や優先順位を、絶対評価で持てていないことです。他の選択肢と比べた相対評価しかないと、比べる相手が変わるたびに答えも変わります。

そこで効く問いが1つあります。

「そもそも、何を実現したくて転職活動を始めたんだったか」

軸は自分で決めていても、活動を進めるうちにブレたり、見えにくくなったりします。 目の前の選考や条件に反応しているうちに、最初の理由が背景に退いてしまう。この問いは、そこを引き戻すためのものです。

エージェントに決めてもらうことはできない

決め切れないとき、エージェントに相談すれば答えが出ると思うかもしれません。ここははっきりしています。

エージェントにできるのは、自分が話した言葉を使って問い直すことまでです。そこで意思決定できる人もいれば、そもそも軸がないので答えられず、決めては覆すことを繰り返す人もいます。

軸を持っているかどうかは、この場面で表に出ます。 エージェントが何をしてくれるか・何は構造上できないかは、転職エージェントとは何かで整理しました。

軸がブレたと感じたとき

活動を進めるうちに、最初に決めたはずの軸が動くことがあります。起きやすい場面は2つです。

うまくいっていないとき

書類選考が通らない、思ったより面接に進まない、受けた会社が全滅した。「次はどうするか」となったときに、自分で「これだ」と言っていた部分がなかったことになって、違う軸で応募を進めていく——という形で起きます。

内定が出た、あるいは出そうなとき

具体的なポジション・役割・給与が見えてきます。目の前の1件の事実に引っ張られて、当初決めていたことが変わる——という形で起きます。

ただし、後者を「ブレた」と決めつけないほうがいいと考えています。

そのうえで、もう一段さかのぼった見方があります。そもそもブレるように見えるのは、軸自体がない、あるいは柔らかい状態で走っているからではないか、ということです。何かがあるたびに動くように見えるとしたら、それは軸になっていなかったのかもしれません。

だとすれば、点検すべきなのは「ブレてしまった自分」ではなく、最初に置いたものが本当に軸だったかのほうです。ここで前の章の問い——絶対評価で語れているか——に戻ります。

「いつまでに決めるか」も、決め方の一つ

軸が定まらないまま時間が過ぎるのを避ける方法として、期限を先に置くという決め方があります。

「この時期までに終える」と決めてしまい、その期間で出会えたなかで相対的に一番良いところに決める、という進め方です。良い転職先を探すことを優先する場合と比べると、進み方も、かかる期間も変わります。

どちらが正しいという話ではありませんが、決めないまま進むと、どちらの利点も取れなくなります。 この2つのスタートの違いは、転職活動の期間はどれくらいかで詳しく整理しています。

「思っていたのと違った」は、どこで生まれるか

入社してから出てくるこの言葉は、決め方の段階までさかのぼれます。

分かりやすいのは、軸の言語化が足りていなかった場合です。大事だと思っていた部分が実は違った。優先順位を自分の中で棚卸しできていなかったので、入社後に変化が出てきた。条件面だけで決めたというのは、その一つの形です。

ただ、エージェント経由で比較的多いのは、もう少し別の形です。

「教えてくれなかった」ではない

ここで、原因を情報開示の不足に求めたくなります。ただ、見方がもう一段あります。

そして入社すると、一緒にいる時間が長くなり、コミュニケーションの広さも深さも大きくなります。 そのなかで新しい事実・考え・価値観が認識されて、「思っていたのと違った」という言葉になって現れます。

つまり、聞けなかったのではなく、聞かなくても大丈夫だと判断していたということです。しかもこれは求職者側だけの話ではなく、面接官の側にも同じことが起こります。

だとすれば、決めるときに見るべきなのは条件表の精度ではありません。自分が意思決定をするうえでどういうスタンスでいるか、そして相手とやり取りするうえで何を重要だと思っているかのほうです。曖昧なまま進めた部分は、入社後に必ず表に出てきます。

なお、労働条件そのものは印象ではなく書面で確かめます。 面接で聞いた話と労働条件通知書の内容が食い違っていないか、勤務地や職種に但し書きがついていないか。ここは判断軸とは別に、事実として確認する部分です。

よくある質問

複数の内定が出て決められません

条件を比べ直すより、「そもそも何を実現したくて転職活動を始めたのか」に戻るほうが決まりやすくなります。決め切れないときは、比較材料が足りないのではなく、優先順位が絶対評価になっていないことがほとんどです。

年収を最優先に決めるのは、良くないことですか

そんなことはありません。年収を上げることで自分の生活や活力につながるなら、それは成功です。問題になるのは、自分の優先順位を確かめないまま「年収が上がるから」という理由だけで動くことです。

転職しないという判断もありますか

あります。一番大事にしたいものを実現するために今の環境を変える必要がないなら、動かないほうが筋が通っています。転職活動は、そこを確かめる過程でもあります。

入社してから「思っていたのと違った」となるのが不安です

不安に思っている部分があるなら、内定が出る前に深掘りしておくのが唯一の手です。多くの場合、情報を隠されていたというより、聞かなくても大丈夫だろうと判断して進めた部分が、入社後に表に出てきます。曖昧なまま残した点は、あとから必ず見えるようになります。

軸が自分でも分からないときは、どうすればいいですか

仕事の枠で考えず、人生で何を一番大事にしたいかに置き換えて考えてみてください。そのうえで、それを実現するのに今の環境を変える必要があるかを見ます。順番が逆になると、条件の比較から抜け出せなくなります。

まとめ

  • 条件の比較表から始めても決まりません。先に自分が一番大事にしたいものを言語化するのが順番です
  • 得るものは一番大事にしたいものとその構成要素、捨てるものはその過程で手放すもの。ただし捨てるものが必ずあるとは限りません
  • 何を大事にするかに、正解の序列はありません。 他人の序列を借りると、決めたあとで違和感が残ります
  • 軸が絶対評価になっているかは、「今の会社」を出さずに志望理由を語れるかで確かめられます。 今の環境の裏返しで選ぶと、次でも同じ違和感に行き当たります
  • 決め切れない原因は、優先順位を絶対評価で持てていないこと。効く問いは「そもそも、何を実現したくて始めたんだったか」
  • ブレたように見えるときは、自分を責めるより「それは軸になっていたか」を点検するほうが先です
  • エージェントに決めてもらうことはできません。 できるのは、自分が話した言葉で問い直すことまでです
  • 軸が定まらないなら、期限を先に置いて、その中で相対的に一番良いところに決めるという決め方もあります
  • 「思っていたのと違った」は情報開示の不足ではなく、深掘りしなくても大丈夫だと判断したところから生まれます。曖昧なまま進めた部分は、入社後に表に出ます

活動全体のスケジュールから考えたい場合は転職活動の期間はどれくらいかに、エージェントに何を期待できるかは転職エージェントとは何かにまとめています。