内定後にやること|承諾前に確認する3つと退職の切り出し方
内定が出ると、多くの人は条件表を見比べる作業に入ります。年収、役職、勤務地、休日。ただ、入社後にもめる原因は、その表に書かれていない内容に多く見られる傾向があります。
内定後にやることは、大きく2つに分かれます。ひとつは、受け取った条件を確認して、承諾するかどうかを決めること。 もうひとつは、今の会社を辞めることです。
前者は、書面を読んで分からないところを聞けば済む部分が多くあります。一方で後者は相手のある話で、いつ切り出すか、どう返されるか、いつ辞められるかが、こちらの段取りだけでは決まりません。内定が出た時点で残っている手間は、後者のほうに寄っています。
この記事では、承諾する前に確認しておきたい3点と、退職を切り出してからの進め方を整理します。
先に結論:確認するのは3点、退職交渉は型で見る
- 承諾する前に確認したいのは、現職の情報を持ち込ませない取り決めがあるか/勤務地の但し書き/残業代がどこまで内包されているかの3点です
- どの会社に決めるかの判断軸は、この記事ではなく別の記事にまとめています。条件表の精度を上げても、決め手にはなりません
- 退職は上司に伝えるのが基本で、そこから人事に伝わります。上司を飛ばして人事から進める場面もあります
- 切り出し方は、相談ではなく報告です。「ご報告があります」と伝えて、意志は変わらないことを最初に伝えます
- 転職先の社名は伝えないでおくのが得策です。ただしここは関係性によります
- 引き止めには3つの型があります。事務手続型・メリット訴求型・感情訴求型で、型によって受け答えが変わります
- 条件を良くする形の引き止めに応じて残る場合、見えにくいデメリットが2つあります。 条件が口約束で終わることと、周りの人の受け止め方です
- 脅しや能力の否定が出てきたら、やりとりをやめて構いません。 先に、状況を共有できる相手を確保します
- 法律上は申し出から2週間で退職できます(民法第627条第1項)。ただし実務では就業規則に沿うのが無難です
- 目安は退職を伝えた日から丸1〜2か月あけた月末。内定承諾から入社まで1.5〜3か月が一般的な範囲です
- 後任を探すのは、退職する側の仕事ではありません
順に見ていきます。
承諾する前に確認する3つ
内定が出ると、条件は書面で提示されます。あわせて、その内容を説明する場が設けられることもあります(オファー面談と呼ばれることが多いです)。
まずは書面を読んで確認し、そこで読み解けなかったところを、説明の場や担当者への連絡で聞く——という順番になります。確認しておきたいのは次の3点です。
1. 現職の情報を持ち込ませない取り決めがあるか
意外に思われるかもしれませんが、ここが最初です。
専門性が高いポジションでのオファーになるほど、これまでの在籍企業での経験を重宝される形での就業が期待されます。その期待の中身が培われた経験とスキルであれば正しいのですが、人脈・機密情報・個人情報の提供のほうに寄っているケースが出てくると、大きなトラブルに発展します。
大半の企業は、誓約書や個人情報の取り扱いに関する覚書を入社承諾の時点で締結します。そこで、転職者に期待してはいけない事項を明確に期待しない旨と、転職者から持ち込ませない旨を、書面で合意します。
2. 勤務地の但し書き
正社員の場合、勤務地には「※業務の都合により変更する場合あり」という但し書きが付いているケースがほとんどです。
見るべきなのは、但し書きがない場合に、本当にないのかです。地元に戻るために転職したのに、他のエリアで就業する可能性があるオファーなのかどうか。ここは書面の文字だけでは読み切れないことがあるので、直接聞いて確かめてください。
3. 残業代がどこまで内包されているか
月45時間分の時間外労働の賃金が含まれているのか、1分から別で出るのか。基本は明確に記載されていますが、読み解けない場合は説明の場で確認します。
金額そのものより、入社後に金銭面の認識のずれからトラブルになるのを避けるための確認です。提示額の内訳が分かっていれば、実際に働き始めてからの見え方が変わります。
どの会社に決めるかは、条件表では決まらない
複数の内定が出て決め切れない、という状態には、たいてい共通の原因があります。自分の中で優先順位を絶対評価で持てていないことです。
ここは内定後の作業というより、その前に済ませておく話なので、転職先の決め方のほうにまとめています。条件表の項目を増やしても答えは出ません。
以降は、入社する会社を決めたあとの話です。
退職を切り出す——誰に、どう伝えるか
退職の意思を伝える経路は3つあります。上司(社長を含む)、人事、退職代行です。ここでは前の2つを扱います。
基本は上司に伝える形です。上司から人事に伝達が入り、そこからは人事ともやりとりをしながら退職を進めていきます。
場の作り方は2通りです。オフィスにいるなら、口頭で時間をもらって会議室で伝える。あるいは、事前にメールや情報共有ツールで打ち合わせの時間をもらい、その場で伝える。後者の場合、時間をもらう時点で退職意向まで伝えるかどうかは、相手との関係性によります。
上司を挟まず、人事から進めるルートもあります。 該当するのは、上司との関係性が芳しくないケース、何らかのトラブルがあるケース、休職中や欠勤しているケースです。順番を守ることが目的ではないので、事情があれば人事から入って構いません。
伝え方は口頭が基本です。出社もできず画面越しでも時間が取れないときは、メールや情報共有ツールでの連絡もありえます。会社のルールによっては、最後に退職願や退職届を提出します。
何と言って切り出すか
切り出し方については、まず「相談したいことが」と伝えて了承を得たうえで、改めて退職願を持って正式に申し出る、という二段構えを紹介している情報をよく見かけます。
なお、会社の事務手続きとして退職願や退職届の提出を求められることは、これとは別の話です。書類は手続きであって、意思を伝える手段ではない、という切り分けになります。
転職先の社名は伝えない
聞かれても、転職先の企業名は伝えないでおくのが得策です。知らせることで得られるものより、デメリットのほうが多いのが実情だからです。
リスクが具体的に出るのは、このあと見る感情訴求型の引き止めに当たったときです。転職先が分かってしまうと、知り合いを介してその会社にいる人へ話が伝わり、辞めていく人についてよくない話をされるということが起こりえます。まだ入社していない段階でそれをやられると、こちらからは手の打ちようがありません。
ただし、ここは関係性によります。 素直に送り出してくれる相手であれば、伝えて困ることはありません。
引き止めには、3つの型がある
退職を伝えたあと、会社がどう出るかにはいくつかの型があります。会社ごとの傾向はありますが、業績や組織への貢献度を踏まえて、個々人でどの型が当てはまるかは変わります。 自分がどれに当たるかは、伝えてみるまで分かりません。
- 事務手続型——引き止めが入らない
-
退職意向が入った時点で引き止めも入らず、形式的に退職理由を聞かれることはあっても、淡々と退職処理が進むケースです。
人員は替えがきくもので、辞めたい人は辞めればいいというビジネスモデルと価値観の掛け合わせが起きている会社やポジションで、見られやすい型です。受け答えはとくに意識しないで大丈夫です。
- メリット訴求型——条件を良くして残そうとする
-
退職理由を聞いたうえで、その理由に該当するカウンターオファーを用意するケースです。人事や組織のマネジメントが機能している会社で、比較的見られます。
中身は給与の改善、異動(職種や担当事業の変更)、昇進(グレードや役職)など。前提として、これは残ってほしいと会社が判断したときに出るものです。事業や組織への貢献度が高く、退職されるデメリットがメリットを上回るという判断があったということになります。
受け答え自体は、提示された内容のメリットとデメリットで判断して構いません。ただし1点、判断に入れておきたいことがあります(次の節)。
- 感情訴求型——情に訴える、あるいは萎縮させる
-
理由を聞くかどうかはさておき、残ってほしい、残ってくれないと悲しい、辞めさせない、辞めてもどうせ他では活躍できないといった形で、喜怒哀楽で感情に訴えたり、萎縮させて退職を撤回させようとするケースです。
トップダウン型の会社や、ビジョンや情熱を大事にしている会社に、見られやすい型です。退職を受理する・しないという問題に発展するリスクが上がりやすいのもこの型です。
条件を良くする形の引き止めに応じるとき、何を引き受けることになるか
メリット訴求型は、提示された条件だけを見れば魅力的な話になっていることがあります。判断はメリットとデメリットを見比べて行うで良いと思っています。ただ、デメリットの側に、その場では見えにくいものが2つあります。
ひとつは、提示された条件が、そのまま実行されるとは限らないことです。引き止めの場で出た話が、あとになって口約束だったという形で立ち消えになることがあります。受けるつもりなら、いつから何がどう変わるのかを、書面で確認しておくことです。
もうひとつは、条件の話ではありません。引き止めのオファーを出した現職の側には、一度辞めようとしたという事実が残ります。 そして、その事実を前提にしたコミュニケーションになるケースが出てきます。
これは風土や価値観では片付けられません。一人一人の感情の話だからです。何かトラブルがあったとき、その人のことを心から助けようと思うか。昇進や異動の話が出たとき、比較対象が会社への愛着が強く退職リスクのない人だったら、どちらを推したくなるか。厳しくフィードバックをしないといけないとき、また辞めると言い出さないかが頭をよぎらないか。ここは、残るという判断をした人に重くのしかかり続けます。
そもそも、カウンターオファーをどう見るか
条件の比較とは別に、この打ち返しをどう受け取るかという論点があります。
脅しや能力の否定が出てきたとき
感情訴求型のうち、情に訴えてくるケースと、萎縮させようとするケースでは、対応が分かれます。
情に訴えてくるケース——辞めてほしくない、大切に思っている、と言われる場合は、感情面とキャリア面を分けてやりとりすることを意識してください。言い方の例としては、こうなります。
ありがたいです。本当にそう言ってくれて嬉しいです。ここからは自分のキャリアを軸に、働く先を考えていきたいと思っています。
脅しや能力の否定で引き止めようとするケース——これはやりとりをやめて結構です。 説得も反論も必要ありません。やることは1つで、状況を共有できる相手を確保することです。
- 転職先が決まっている場合
-
まず人事に連絡して構いません。人事も同じスタンスであれば、就業を拒否してよい状況です。
あわせて、入社先にも共有しておきます。転職エージェント経由で決まっているならエージェントに相談し、直接応募で決まっているなら入社先の人事にすぐ連絡してください。これをしておくだけで、トラブルが起きたときに対応してもらえます。
- 転職先が決まっていない場合(この記事では例外にあたります)
-
この記事は内定が出たあとの話なので、ここは本来の前提から外れます。ただ、退職しないと転職活動ができないケースや、気持ちの上で辞めてからでないと動けないという人もいるので、その場合について触れておきます。
その場合は、総合労働相談コーナーに連絡してください。都道府県労働局や労働基準監督署に設置されている、労働問題全般の相談窓口です。自分で抱え込まず、第三者に話をして、逃げる場所を用意しておくことです。
退職日と引き継ぎ
法律上は、期間の定めのない雇用であれば、申し出から2週間で退職できます(民法第627条第1項)。就業規則は法律があったうえでの会社独自のルールなので、法律のほうが優先します。
ただし、実態としては就業規則に沿った対応を求められるのが一般的です。よほど転職先の都合で難しいのでなければ、求められる進め方に沿った日取りにするのが無難です。2週間で辞められるという事実は、もめたときの拠り所として知っておく性質のものだと考えてください。
目安は、退職を伝えた日から丸1〜2か月あけた月末です。9月25日に伝えたなら、10月末か11月末になります。あくまで目安で、有給休暇の残日数や、就いている役職と責務によっては、まれに半年から1年弱空くケースもあります。
ただし役職者の場合は、その時期を見越して事前に会社側へ意向を伝えていたり、退職が受理されて引き継ぎを始めながら転職活動をしていたりすることが比較的多くあります。全体としては、内定承諾から入社まで1.5〜3か月程度が一般常識の範囲と考えておくとよいと思います。
活動全体でどれくらいかかるかは、転職活動の期間はどれくらいかのほうにまとめています。退職交渉と引き継ぎの期間は、選考にかかる期間には含まれていません。
後任を探すのは、退職する側の仕事ではない
引き継ぎで揉めやすいのは、企業側が後任を見つけるのに苦戦する、あるいは見つけようとせず、退職を後ろ倒しにしようとするケースです。
基本的な考えとして、後任を探すのは退職する側の仕事ではありません。 ここは履き違えないようにしてください。
よくある引き伸ばしが「このタイミングで辞めるんだから、ここは譲歩してよ」「ここまではやりきってよ」というケースです。つまり、迷惑をかけて辞めるんだから、と言いたいわけですね。
引き継ぎができるようにドキュメントやフローをまとめておくところは、退職する側がやるべきところです。ただ、責任があるのはそこまでです。 それ以上の要求は筋が通っていないので、丁重にお断りするで問題ありません。
つまり、やることは引き継げる形にしておくことです。担当している業務のドキュメント、関係先との経緯、判断の基準。これが揃っていれば、後任がいつ決まるかは会社側の問題になります。
よくある質問
- オファー面談で条件の交渉をしてもいいですか
- 聞くこと自体は問題ありません。ただ、この場は基本的に提示内容の説明と確認のための場です。金額を動かしたいなら、選考の途中で希望を伝えておくほうが通りやすくなります。オファーが出てから初めて希望額を出すと、社内の等級や他のメンバーとの兼ね合いで動かせないことが多いです。
- 誓約書や覚書がないのは、その会社が緩いだけではないですか
- その可能性もあります。ただ、専門性を評価されて入るポジションほど、書面がないこと自体がリスクになります。何を期待されているのかを確認する材料として使ってください。面接の過程で前職の人脈や情報への関心が見えていた場合は、特に確かめておいたほうがいいです。
- 引き止めを断ると、円満に辞められなくなりませんか
- 断り方の問題であって、断ること自体が原因になるわけではありません。感情面には感謝を返し、キャリアの判断は自分の軸で説明する、と分けて話せば会話は成立します。逆に、はっきりさせないまま曖昧に返すほうが、話が長引いて関係が悪くなりやすいです。
- 退職を伝えるのは、内定承諾の前と後のどちらがいいですか
- 承諾の後です。承諾前に伝えると、内定が出なかった場合や条件が合わなかった場合に戻れなくなります。ただし、役職者で引き継ぎに時間がかかる見込みがあるなら、時期を見越して事前に意向を伝えておくケースもあります。
- 有給休暇はすべて消化できますか
- 権利としてはありますが、実際には引き継ぎの日程と合わせた調整になります。退職日を決める段階で、残日数を含めて話しておくのが現実的です。退職日が決まってから消化を申し出ると、日程が動かせなくなっていることがあります。
まとめ
- 承諾する前に確認したいのは、現職の情報を持ち込ませない取り決め/勤務地の但し書き/残業代の内包範囲の3点です
- 1つ目は、取り決めが出てこないことのほうが危険という読み方をします
- どの会社に決めるかの判断軸は、条件表の外にあります。整理の仕方は転職先の決め方へ
- 退職は上司に伝えるのが基本。事情があれば人事から入って構いません
- 切り出しは相談ではなく報告。「ご報告があります」から入り、意志が変わらないことを先に伝えます
- 転職先の社名は伝えないでおくのが得策です(関係性によります)
- 引き止めは事務手続型・メリット訴求型・感情訴求型の3つ。どれに当たるかは伝えてみるまで分かりません
- 条件を良くする形の引き止めに応じて残るなら、見えにくいデメリットが2つあります。 条件が口約束で終わることと、周りの人の受け止め方です
- 脅しや能力の否定が出たら、やりとりをやめて構いません。 先に状況を共有できる相手を確保します
- 法律上は申し出から2週間(民法第627条第1項)。ただし実務は就業規則に沿うのが無難です
- 目安は伝えた日から丸1〜2か月あけた月末、内定承諾から入社まで1.5〜3か月
- 後任を探すのは退職する側の仕事ではありません。 責任があるのは、引き継げる形にしておくところまでです
内定が出てからの工程は、自分だけで完結しない部分が増えます。条件の確認は書面を読めば済みますが、退職交渉は相手のある話で、どう出られるかは選べません。
選べるのは、どの型で来たかを見て、受け答えを変えることと、うまくいかないときに話せる相手を先に確保しておくことです。ここを知っているかどうかで、同じ場面でも負担がかなり変わります。
